はじめに ~名義株とはなにか~

 会社の設立時や株式の発行時に、何らかの事情により、他人の名義を借用して株式を引き受け、払い込みをすることがあります(ここでは、名義を貸した人を「名義貸与者」、名義を借りた人を「名義借用者」と呼びます)。

 この場合、株主名簿には、真の株式の所有者たる名義借用者ではなく、名義貸与者が株式を所有する旨が記載されます。このように、株主名簿に記載された株式の所有者と、実際の株式の所有者が合致しない株式を「名義株」といいます。

 このように外観と実態に不一致がある場合、後々に様々な紛争が生じ、訴訟にまで発展するケースが多くあります。このサイトでは、中小企業の会社経営者が抱える法律問題に詳しい弁護士が、名義株の諸問題について詳しくご説明します。名義株でお困りの方、懸念のある方は、当サイトをご参照のうえ、お気軽に三橋総合法律事務所までご相談ください。

真実の株主は誰か

  •  名義株のように、外観と実態に不一致がある場合、後々に紛争が生じるケースが多くあります。すなわち、当初は何も問題がなかったはずの会社や名義貸与者が、「株主は名義借用者ではなく名義貸与者である」と主張し始めるケースです。
    このような場合、名義借用者は自分が真実の株主であることを会社や名義貸与者に主張できなくなってしまうのでしょうか。

  •  裁判例によれば、答えはNOです。
     新株発行において、他人の承諾を得てその名義を用いて株式の引受けがなされ、名義貸与者と名義借用者のいずれが株主になるかが争われた裁判例では、「他人の承諾を得てその名義を用いて株式の引き受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるものと解するのが相当である。…株式の引受および払込については、一般私法上の法律行為の場合と同じく、真に契約の当事者として申込をした者が引受人としての権利を取得し、義務を負担するものと解すべきである。」と(して、実際に振込みや対価の提供を行った行為者が株主であると)判示したのです。

実質上の株主の認定要素

  •  それでは、上記裁判例のいう「実質上の引受人」ないし「真に契約の当事者として申込をした者」とは、どのように認定されるのでしょうか。
     この点についても裁判例が集積しており、以下に挙げるような、諸々の要素を総合的に考慮して、実質上の株主を判断すべきだとされています。これらの要素に共通する重要なポイントは、名義株と認められるような客観的な証拠や事情が認められるかどうか、という点です。
  • ☑株式取得資金の拠出者は誰か
    ・株式の払込金は誰名義の口座から出捐しているか
    ・名義貸与者名義の口座であっても、当該口座が名義借用者によって開設され、名義借用者によって管理されている場合には、名義借用者が資金の拠出者と認められるケースもあります。その際には、口座開設の経緯や口座の銀行印の管理状況、届出住所等の客観的な事情を考慮することになります

    ☑株式の管理や運用は誰が行っているか
    ・株式申込書は誰の筆跡か(誰が記入したか)、誰の印鑑が使用されているか
    ・株券が発行されている場合、株券は誰が保管しているか
    ・株主関係書類は誰あてに送付されているか

    ☑配当金や株主優待特典は誰が受領しているか
    ・配当金の受領印は誰のものか
    ・配当金の支払調書は誰の名前になっているか
    ・配当について誰が税務申告を行なっているか

    ☑株主総会における議決権の行使状況
    ・株主総会の通知書は誰に送付されているか
    ・株主総会に出席したのは誰か
    ・株主権を実際に行使したには誰か

    ☑名義貸与者と名義借用者、会社の関係
    ・名義貸与者と名義借用者の間の合意を示すやりとりや文書の有無

    ☑名義借用者の認識
    ・名義借用者は譲渡税や贈与税の申告を行なっているか
    ・名義借用者は株主であることの認識があるか
    ・名義借用者から株式買取請求などがなされていないか

    ☑名義借りの理由の合理性の有無

     これらの事情を総合考慮した上で、名義借用者が実質的な株主であると認定できれば、名義借用者が株主であることが認められます。

名義借用者が真実の株主であることを主張する方法

  •  しかしながら、名義借用者自身が上記のような事情を並べて自分が株主であることを主張したところで、会社や名義貸与者がその主張を容易に認めることは多くありません。
    株式会社においては、株主名簿に記載のある名義人を株主として扱うことが基本とされており、名義書き換えがなされるまでは、明白な例外的事情がない限り、名義貸与者を株主として扱うことが基本となります(会社法130条1項参照)。
     また、名義貸与者においても、株主名簿や定款に自分の名義が記載されている以上、株主は名義貸与者であると頑なに主張し、紛争は悪化を辿る場合がほとんどです。
     そこで、名義借用者が自己の株主権を主張するためには、弁護士に依頼して民事訴訟等の法的手続を後ろ盾に、会社や名義貸与者に対して、株式にかかわる法律的観点から分析した見通しを示して、名義借用者が実質的な株主であることを説得することが有効です。会社や名義貸与者が弁護士の説得に応じた場合は、直ちに株主名簿の書き換え請求を行います。株主名簿の書換えは、原則、株主名簿に記載された名義人と、真の株主である名義借用者が共同して会社に請求します(会社法133条2項)。 
     会社や名義貸与者が弁護士の説得に応じない場合は、即座に株主権確認訴訟を提起し、裁判で決着をつけることが近道となります。

  •  この紛争の難しいところは、名義の貸し借りという当事者間だけのやりとりを、諸々の直接証拠ないし間接的な状況証拠によって立証しなければならないという点にあります。一方当事者の言い訳には嘘や誇張が含まれることが多く、他方当事者は義憤にかられることがあります。しかし、感情にとらわれることなく、理論と証拠によって、緻密に主張立証することが必要になります。そのため、これらの主張立証は、当事者ではなく弁護士等の第三者によって行われ、第三者の眼によって検証されることが最も実効的です。
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名義人が真実の株主であることを主張する方法

 以上とは逆に、名義貸与者であると主張されている名義人自身が、自分が真実の株主であると反論することも当然可能です。
 多くのケースでは、過去のある時点では名義貸与者に過ぎなかったものの、その後に名義貸与者が名義借用者から実際に株式の譲渡や贈与を受けて、真実の株主になることがあります。それにもかかわらず、事後的に、名義借用者が譲渡や贈与の事実を否定することで、名義借用者が真実の株主であると主張することがあります。この場合には、当初の真実と形式の不一致と後の真実と形式の一致が混在することになりますので、当事者の記憶の混同などが原因で、真実が見えにくくなります。時系列に沿って整理したうえ、上記の裁判例の認定要素を客観的に分析する必要があります。
 そして、当該株式は名義株ではないことを相手方に主張し、折り合いがつかない場合には、株主権確認訴訟に持ち込むことになります。

 株式の譲渡や贈与については、その背景や経緯を物証や人証を通じて事細かに分析し、客観的かつ論理的に事象を証明することが必要となります。訴訟をみすえて証明活動が必要になりますので早急にご相談ください。