【6】不適切な説明

遺産分割に関する責任

 税理士が相続税申告と共に相続人間の遺産分割や遺産分割協議書の作成を受任する場合があります。
そもそも税理士が遺産分割を行うことについては弁護士法等に抵触する可能性がありますが,税理士が遺産分割や遺産分割協議書の作成を受任した以上は,その専門性に鑑み,依頼者である相続人に不測の損害を与えることがないように,税務上のリスクのみならず,法的なリスク等についても十分な説明を行う義務があります。
 不十分な説明に終始したり,不適切な助言をしたことにより,不適当な遺産分割がなされ,結果として経済的負担が増したり、相続税を多く支払わざる得なくなった等の場合には,税理士に対して損害賠償請求できる可能性があります。

 👉裁判事例:税理士に相続放棄についての説明義務を認めた事例
 税理士が遺産分割協議書の作成を受任した事例で,相続財産が債務超過となり,相続人が債務を負担する可能性があることが判明したような場合には,依頼者である相続人に不測の損害を与えることがないように,相続放棄することができる旨の説明をすべき義務があると判示したものがあります。
 遺産分割にまつわる経済的リスクや法的リスクについて,税理士の説明義務違反がとわれる可能性を示した事例です。

節税対策に関する責任 

 税理士が提案した節税対策を実行し,相続税申告を行った結果,税務署に節税対策を否認され,税務当局から更正処分や過少申告加算税,延滞税等を課された場合には,税理士に対して責任をとうことができる場合があります。
 税理士は租税立法,通達及び課税実務等について専門的知識を有するプロですから,租税立法の趣旨に反せず,課税実務において認められる内容の相続税対策を考案し,税務相談に応じる注意義務があります。
 税務当局から否認されるおそれがあることが十分に予見可能であるにもかかわらず,課税実務において否認されるような相続税対策を考案し,税務相談に応じる場合には,税理士に注意義務違反が認められます。

 👉裁判事例:株式を利用した節税対策を考案・指導した税理士に責任を認めた事例
 税理士が被相続人と相続人に対して,取引相場のない株式を利用した節税スキームを考案して指導した結果,税務署が当該スキームを否認し,更正処分と加算税を賦課した事案で,税理士の注意義務違反が認められた事例があります。
 問題となった節税対策は,被相続人が取引相場のない会社の株式を買い受け,財産を株式に転換した上,当該株式を相続人に贈与し,当該株式の時価を通達に従って配当還元方式で評価することで評価額を減縮し,さらに贈与税の申告を行うことにより,被相続人死亡時の相続税の負担を軽減するというものです。相続人は贈与税の申告後,第三者に当該株式を時価で売却しすることで,被相続人が買い受け時に支払った株式の売買代金を回収し,相続人が少額の贈与税の支払いだけですむようなスキームです。
 本スキームにおける株式は,相続税及び贈与税の負担軽減を目的として一時的に保有され,その目的を達成すると出資額に見合う金銭を回収することを目的として発行される特殊な株式であって,通達が配当還元方式により評価することを予定している株式とはかけ離れた性質を有し相続税法の立法趣旨から逸脱するものであること,このような節税商品については形式的に通達に従っていても税務当局から否認される流れが出始めていたこと等などからすれば,担当税理士においては本スキームが税務当局から否認されるおそれがあることは十分に予見可能であったにもかかわらず,注意義務に反して本スキームを考案・指導したことについて過失があるとされました。
 その上で,被相続人が本件株式の購入費用として借り入れた金利約2億4000万円について,被相続人は本スキームが更正処分等を課されるような瑕疵ある対策であることを知っていたならば,第三者から借入れをせず,金利を払う必要もなかったとして,担当税理士等に同額の損害賠償責任を認めました。